「商社」というと5大総合商社として、三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅が挙げられます。各商社はそれぞれ事業内容に特徴があります。
この記事では
- 商社のビジネスモデル
- 5大商社の比較と今後
- 商社株は買いか?
についてまとめています。商社株への投資思考について、結論を述べると
① 商社株は割安だが株価の急上昇は期待薄
② 総合力No.1は三菱商事、安定成長は伊藤忠商事
③ 投資スタイルがバリュー投資ならば三菱商事、グロース投資を兼ねるならば伊藤忠商事
です。それでは詳しく見ていきましょう。
商社のビジネスモデル
商社のビジネスモデルを簡単に述べると「商取引・事業投資」です。
商取引業務
世界中の生産業者から仕入れた商品を取引先へと販売する仲介業務、いわゆるトレーディングを指します。具体的な業務は以下が挙げられます。
- 貿易事務
- 商品のマーケティング
- 広告宣伝
- 物流サービスの提供
- 販路の確保
つまり商品を流すだけではなく、それに付帯する物流、マーケティング、販路および宣伝も含めて総括的にサポートするのが商社の役割です。
取り扱う商品には、『食品』『医療品』『鉄鋼』『石油』『自動車』『繊維』など様々なものが挙げられます。
あらゆる商品を扱う商社を総合商社、特定の1分野に特化した商社を専門商社といいます。
投資業務
昔の商社は商取引が主流でした。しかし各メーカーが独自の海外販路を開拓することで、商社による仲介マージンを削減する動きが出てきました。
そこで商社が打ち出した打開策が、サプライチェーンマネジメントと呼称される流通網効率化や、成長が見込める企業および資源開発への投資事業です。最近ではこの投資事業がトレンドとなってきました。
成長事業に関しては資金の出資のみではなく、自社人材を派遣して管理運営にも積極的に参画します。
出資事業・資源開発への投資及び参画により
- 保有株式価格上昇
- 保有株式配当金上昇
- 参入事業収益上昇
から利益を拡大していく構造となっています。
5大商社の特徴
最近の商社は投資事業がトレンドになっていると述べました。
三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅といった5大商社はそれぞれ投資に力を入れている事業が異なります。では各社のスタイルの違いを見ていきましょう。
三菱商事
セグメント別の純利益は、金属・エネルギー事業 (石油・天然ガスなど)で6割強を占めており、資源を主力として企業であることが窺えます。
資源価格は景気に左右されやすいため、業績の変動は比較的激しい
ことが示唆されますね。
三井物産
三井物産も三菱商事と同様に当期利益では金属・エネルギー事業の割合が高く占めています。三井物産は従来から資源分野に注力しており、この商社の色と言えます。特に豪州鉄鉱石事業に注力しています。
今後も資源分野に集中投資を続けていくことが予想されます。
伊藤忠商事
伊藤忠商事は三菱商事・三井物産とは異なり、金属とエネルギー事業のセグメント割合が低く、情報・金融などの非資源分野が主力となっていることが窺えます。
2018年度にはその他の項目で▲760億円の減損損失を計上しています。
CITIC Limitedという中国の投資会社の株価が、米中貿易摩擦に影響を受けた中国経済の不透明感から暴落し、当社に出資していた伊藤忠商事がその煽りを受けたという背景です。
従って、非資源主力で業績の大幅変動リスクは低くはありますが中国リスクは有しているという状況です。
住友商事
総合的に見ると電力などのインフラ、メディア・デジタル、生活・不動産などの非資源分野かつ人の生活に即した分野が多いため業績は安定することが予想されます。
しかし、一方で2019年度は金属事業で▲500億円の減損損失を計上しています。
また、直近のニュースでもコロナ影響によるニッケル価格の下落から、マダガスカルで進行中のニッケル事業が不振となることを発表しています。
2021年3月期第一四半期連結決算で約550億円の減損損失発生見込みを開示しており、資源分野の脆さが窺えます。
丸紅
丸紅は電力と食料に注力している一方で、金属・エネルギー事業にも比較的高い割合で投資しています。
2019年度は新型コロナウイルス感染拡大から、各国が移動自粛措置を実施した関係で生産活動が鈍化し、原油が余ったことで価格が暴落しました。
丸紅は原油価格暴落の煽りを受け、2019年度通期業績を下方修正しました。特に目立つのはやはりエネルギー事業で▲1493億円の損失を計上しています。
5大商社の純利益推移
5大商事の過去6年間の純利益推移 (通期)を比較します。

2019年度時点で最も高い純利益を出しているのは三菱商事です。しかし、2015年度のように純利益が激減している年度もあります。
この原因はシェールオイル開発の影響で、アメリカ内の石油が余ったことによる原油価格の低下の影響です。前述したように資源が主力であるが故に業績変動が大きいことが窺えます。
一方で、非資源分野を主力とする伊藤忠商事は資源価格の変動影響を受けずに堅調に純利益を伸ばしています。
2019年度時点で伊藤忠商事の純利益は2位まで上昇しています。
住友商事、丸紅はそれぞれ前述した通り、ニッケル価格変動及び原油価格変動の影響から苦しい状況となっています。
5大商社の株価比較
5大商社の株価推移を比較してみましょう。以下は2010年8月から2020年7月までの10年チャートです。

商社のビジネスモデルのように事業が多岐に分散している企業は、単体で事業を営む場合と比較して市場評価が低下し、株価は低く推移します。これを“コングロマリット・ディスカウント”といいます。
従って商社株は基本的に大きく変動せず推移しますが、伊藤忠商事のみ株価が堅調に上昇しており、現在投資している非資源事業が伸びていることを表しています。
5大商社の配当金比較
2016年度からの配当金推移を比較します。

三菱商事が右肩上がりで上昇し、伊藤忠商事も緩やかに上昇しています。
三井物産は2020年度から80円で横ばい、住友商事と丸紅は2020年度減配見込みです。
総合的に見ると三菱商事が配当利回り(2020年7月28日時点)5.92%と圧倒しており、配当性向が38%程度であることからまだまだ余力があると窺えます。
よって高配当バリュー投資ならば三菱商事が有力でしょう。
また、業績面及び株価上昇では伊藤忠商事が優秀です。
現在配当利回りは3.68%と並ですが、今後も非資源産業の業績が伸びると考えるのであれば伊藤忠商事はバリュー + グロースという視点で保有するのも面白そうです。
まとめ
今回は5大総合商社のそれぞれのビジネスモデルと株価の特徴についてまとめました。要点は以下の通りです。
① 商社の最近のビジネスモデルは投資事業がトレンド
② 三菱商事、三井物産は資源分野主力。伊藤忠商事は非資源分野主力
③ 長期バリュー投資ならば三菱商事。長期バリュー + グロース投資ならば伊藤忠商事
資金を遊ばせているのであれば商社株長期投資に組み込むのも一つの手段であると思います。
それではまた次の記事で。